先日、40代同士で結婚した50代の女性からこんなお話をしていただきました。「親の介護が始まって、パートナーがいるありがたみを心から理解できました。親が元気なうちは確かにさみしくないし、自由だし、1人で何が悪い!と思っていたのですが、親の介護が始まる年齢になると、自分も体力・気力がおちてきているので、介護の心身への負荷は凄いんです。そんな時、夫が協力してくれること、相談に乗ってくれること、客観視してくれること、すごく助かっています」
このコラムを主に読んでいただいている結婚希望者の皆様、その親世代の皆様は、まだ上記のような実感や状態にないかもしれません。しかし、20代の婚活男女の親御さんであれば40~50代ですが、40代婚活であれば、その親御さんは60~70代となります。つまり、同じ婚活でも、20代の婚活と40代の婚活では、その背後にある親御さんの状況が全く異なることをご理解いただけると思います。
福井県の未婚男女の結婚意欲
最初に、2024年に実施された「福井県こども・子育てニーズ調査」から結婚意欲と年齢の関係性がわかるデータを確認してみましょう。
データをみると、30代後半はサンプルが13人と極めて少ないため、割合計算対象外となりますが、母数が一定数以上ある20歳から34歳をみると、年齢が上がるにつれて結婚したくない方の割合が上昇していく様子がわかります。この「年齢上昇とともに結婚したくない方の割合が上昇する」データの解釈ですが、2つの解釈ができると思います。
①結婚意欲が高い(早く結婚したい、いずれは結婚したいと回答)方から結婚していくため、年齢層が上がるほど、結婚したくない方の割合が上昇する
②年齢が上がると結婚の壁となる事情が増えて、結婚したかった方も結婚したくないという気持ちに移行する
①については、若いうちから結婚したいと強く思える方から願いが叶っていく結果、未婚者の母集団のうち結婚したくない方の割合が上がるのは必然的ともいえます。私は毎月、12県の結婚応援事業者(自治体センター、結婚相談所、公益団体等)からなる研究会を主宰していますが、結婚意欲が低いままで婚活をしても、念願成就とはなりにくい、という現場からの声が多く上がっています。
親御さんとの関係でお話しすると、婚活イベントや結婚相談所に「親に言われたので、参加(登録)しました」という男女が一定数いるそうです。しかし、このような意欲の低い状態で婚活する方が成婚に至るケースは、自主的に婚活される方に比べて非常に低くなるそうです。
最近では、婚活イベント前に婚活マナーセミナーを開催するケースも増えてきていますが、そういった場で「『親に言われてきた』なんていう参加態度は、真剣に出会いを探しているお相手に対して大変失礼だ」と参加者に伝える場合があるといいますが、親に言われてきましたという態度は、誠実な婚活とは言い難いといえるでしょう。「親に言われたので参加する」といってしまう背景には、
- お相手の気持ちに立って行動ができない(思いやりの欠如)
- 親の指示で行動していることを公言することに違和感を持てない(自立心の低さ)
- 末長く向き合っていく結婚相手探しの理由が他人任せ(長期的なライフデザインの欠如)
などがあり、これでは婚活がうまくいかないだろうと読者も納得されるのではないかと思います。
②については、年齢があがってくると、仕事での責任が重くなる、仕事の固定化(勤務地、就業先)などがあり、お相手とのライフデザインのすり合わせが難しくなってきます。20代のようにお相手と話し合って柔軟に決めればいいというわけにはいかない、という方の割合が増えるでしょう。また、前回のコラムでもお伝えしましたが、福井県では25~26歳が結婚のピーク年齢ですので、それを超えて活動を長く続けている方ほど、結婚意欲は高いけれども、何かそれ以外に壁となる事情がある、例えば、親御さんの希望が「親ブロック」となって結婚を阻んでいるために成婚に至っていないということも考えられます。
30代後半以降で再燃する結婚希望
令和6年「福井県こども・子育てニーズ調査」では20代から30代前半にかけて、結婚を希望する方の割合が低下している様子がわかりました。ではこのまま年齢上昇とともに、結婚希望のある方の割合が低下するのかというと、そうではない、というデータがあるのでご紹介しましょう。
少々古いデータにはなりますが、2017年に(株)明治安田生活福祉研究所(現在、(株)明治安田総合研究所)がリリースしたレポート「35~54歳の結婚意識に関する調査」では、回答者のうち、一生独身でいることを決意・覚悟したことがある35~54歳の未婚の男性780 人、女性624 人のうち、男性364人、女性296人が「一生独身でいることを決意・覚悟した後、(35歳から54歳の年齢で)結婚したいと思うようになった」と回答しているのです。
なんと1度は結婚しないと決めていたのに、35歳以上になってやっぱり結婚したくなった方が男女ともに約5割(男性46.8%、女性47.4%)もいるという驚愕の結果です。
その理由ですが、男性では「さみしくなったから」が1位で25.8%、2位が「老後1人で生活することが不安になったから」で24.0%です。女性は1位が「老後1人で生活することが不安になったから」35.3%で、2位以下の選択肢を選んだ割合がいずれも20%ない状況となっています。
男女ともにあげている「老後1人で生活することが不安になったから」ですが、回答者の年齢が上がるほど選択割合が急上昇し、40歳未満男性では17.0%ですが、45歳以上では36.5%に跳ね上がります。女性も同様に25.9%から53.4%に急増します。45歳以上になると、その親は若くても60代半ば、75歳以上の後期高齢者の親がメイン層となります。親がいなくなるかもしれないことが現実味を帯びてきたその時になってようやく「老いて1人になる自分」をイメージできるようになって、それならやっぱり結婚したい、となるわけですが、これに対しては大きな婚活の壁があります。
回避される「ヘルパー探し婚活」
最初にお話しした女性は、40代での結婚といっても自らの親が元気な時に結婚しています。また、お相手の男性も彼女と年齢が数歳違いで、やはり親は元気な状況でした。
しかし、以下のような婚活になってしまうと、お相手から「私は介護要員じゃないぞ!ヘルパー探し婚活は失礼だ」とクレーム案件となってしまうことが多く、結婚支援者から「どうしてもっと早く婚活しなかったのか」という声があがっています。
(ヘルパー探し婚活として回避される婚活)
- すでに自身の親が介護状態になっている、なりかけており、自分に介護負担がかかっている(かかりそうである)
- (上記に加えて)お相手の年齢が若いなどで、お相手の親の介護は全く発生していない
実際に結婚相談所で、アラフィフ(50歳前後)男性がアラフォー女性にグイグイアタックしていたものの、女性から「本人はゴルフに週末よく行く話をずっとしていて、旅行好きなどと聞いていたのですが、仲良くなってきたら『最近、母親が倒れて、脳卒中で要介護の父親の世話が自分にふってきた』なんて言い出しました。私のことをヘルパーにしようとしていると感じました。とんでもないです。交際中止です」となったというお話もでています。
自分の利益ばかり考えてしまい、「お相手に対して誠実であること」を忘れてしまっては、成婚には至りません。
わが子の自立を促せる親に
福井県の令和6年「福井県こども・子育てニーズ調査」をみると、20~30代未婚男女のうち、男性の81.7%、女性の85.9%が2世代、3世代同居という状況で、福井県は親との同居率が非常に高いエリアとなっています[1]。
[1] 国勢調査では、20代から30代の未婚男女の親族との同居率は、全国平均で男性6割、女性7割程度です。これでも西側先進諸国の中では非常に高い同居率となっています。世界的にはイスラム諸国や貧困国で同居率が高くなっています。
つまり、アラフォーあたりから「老後1人で生活することが不安になったから」やっぱり結婚したくなった、という上記で紹介したアンケート結果の男女のようになりやすい世帯構造に福井県はあるのです。
ここを読んでおられる方は、自身や自分の子に結婚希望がある方が大半かと思います。そうであるならば、40歳近くなって親の老化を感じてようやく「老いて1人になる自分」をイメージできるようになり、結婚を希望するも「介護要員探しの婚活なんてとんでもないです」とお相手に言われてしまうような人生にならないように、なるべく早く、暮らしにおいて子が親に依存しないライフデザインを、親子ともに目指さねばなりません。
親子同居が子どもを婚難にするかどうかは、親御さんの姿勢が決めると思います。
父親が住処と自動車を子に無償提供。母親が子のお世話係。20歳になってもトイレ掃除も下着の洗濯もしない。稼いだお金はゲームや推し活に課金。
そんな中学生のような大人を作ってしまうのは、他でもない、その親御さんの姿勢なのです。
わが子を愛するならば、自らが老いる前に子に家庭を持ってほしいと願うならば、親が子に対して暮らしの中で自立を促す必要があることを、少しでも親御さんたちに意識して行動していただけたらと願っています。
お話いただいた先生はこちら
ニッセイ基礎研究所
天野 馨南子氏
あまの・かなこ
ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー。
専門は少子化対策や東京一極集中、女性活躍推進など。
エビデンスに基づく分析や提言に取り組み、政府や地方自治体、経済団体の人口問題関連委員を多数務める。著書に「まちがいだらけの少子化対策」((一社)金融財政事情研究会)など。